新外産菌床について

 最近は菌床も研究が進み、以前に比べ質は高くなってきていると感じています。しかしそれでも完璧なものはもちろんまだありません。皆さんがクワガタの大きさや形を追求するのと同様に菌床に対してできるところまで追求してみようという気持ちから新外産菌床の製作は始まりました。いい菌床、または菌床に求めるものについていろいろな方から意見をお聞きしました。自分の考えと協力して頂いた方々の考えをまとめると以下のようになります。

○でかくなる
○羽化不全が少ない
○死亡率が低い
○持ちがいい
○羽化する個体の形がいい
○価格が安い

 現在発売されている菌床でこれらすべてを満たすものは私は見たことがありません。以上のことをイメージとして具体的に形作っていくのですが、菌床の質を決める要素は以下の5つに分けられます。

○樹種
○粒子
○水分
○種菌
○添加剤

 これらの組み合わせによって菌床はその特性が変わります。クワガタの知識はもちろん、キノコの知識、栄養学などの知識を総合しなければいい菌床はできません。そう断言しておきます。私の場合キノコ(菌糸)についてはある程度の知識を備えていましたのでそちらからのアプローチが特に主体となっていましたが、クワガタの細かい特性などは協力頂いた方々の意見がかなり参考になりました。新菌床製作においての以上の5つについて、アプローチの仕方や決定の理由など細かく説明します。

1、樹種


 現在菌床に使用されている樹種はさまざまで主にクヌギ、ブナ、コナラ、エノキ、カシなどです(その他使えるものとしてはサクラ、ケヤキ、ヤナギなどで、広葉樹であれば広い範囲で使用可能です)。数多くある樹種の中で一番いい樹種は何なのでしょうか?私はブナを選択しました。ブナを選択した一番の理由は灰汁(あく)が少ないことです。灰汁の正体はタンニンなのですが、タンニンには殺菌作用があり樹木は自己防衛のために身につけたといわれています。タンニンが少ないということは幼虫にとって負担が少ないと言えます。またブナはその他の樹種に比べタンニン以外の抗菌性(抗害虫性)物質もほとんど持ち合わせていません。ブナは枯れるとすぐにキノコなどの菌に攻撃されます。多くの木材腐朽菌はブナ材を栄養に成長することができます。そのようなことからもブナに含まれる特殊な物質が少ないということがわかります。
 現在日本で飼育されている外産クワガタはさまざまな地域から入ってきているものです。その幼虫の食樹はさまざまでカシ類を主食としているものもあるでしょうし、ナラ類を主食としているものもあるでしょう。種類ごとに樹種を選択するのが理想なのでしょうが、それは不可能です。多くの種類において幼虫の負担を軽減し成長を阻害しない樹種の選択としてブナを選んだのです。
 樹種ごとの成分の違いによる幼虫に対する負担の差はクヌギ、ブナ、コナラ、エノキ、カシなどであれば恐らく微々たるものでしょう。死亡率や成長不良個体の発生の面で差が出るのではないかと考えていますが、せいぜい5%位の差ではないでしょうか(数字は推定で特に根拠はなく、正確な実験は必要と思われます)。健康な幼虫にとっては樹種の差による負担の違いは例えばクヌギとブナではあまりないかもしれません。しかし新菌床製作にあたってはその少しの差を追求したかったので、ブナを選択しました。あくまで樹木の栄養価という視点から見て、大きくする目的の樹種の選択ではありません。負担を軽減することが目的です。結果としてそれが大きくなること、アベレージが上がることへもつながる可能性があると考えています。
 ここで栄養価という面については疑問がある方もいることと思います。菌床に関しては樹種ごとの栄養価の差というのはあまり関係ありません。栄養添加剤を入れるためオガの栄養価の差はあまり関係なくなります。この辺は具体的な数字を提示することもできるのですが、今回は省略します。
ところでクワガタ業界では一般に栄養価はクヌギ、コナラ、ブナの順だと言われています。しかしその真偽は明らかではありません。ただブナは平均してコナラより栄養価は高いという報告はあります。どちらにしても樹種ごとに成長の差が出たとしてもそれは菌床に関して言えば、樹種の栄養価の差による影響は少ないといえるでしょう。主な原因は負担が少ないことから来るものや、オガの状態から来るもの、添加剤から来るものなどだと思います。
 ところでブナは万能かというとそうではありません。クヌギやコナラに比べ腐朽速度が速いので、その分オガの持ちが悪いです。オガの腐朽が進み柔らかくなると、特に水分が多いと泥状になりやすいです。後でも述べますが、その改善策として水分を減らし、粗目のオガを混合しました。これにより飛躍的に持ちは良くなります。

2、粒子

 粒子は培地(オガ)の持ち、仕上がりという面においてその選択、配合割合は大切となります。例えば微粒子のみの場合、仕上がりは早いが持ちは悪い。粗目はその逆です。
単一の粒子では限界があると判断し、仕上がりも早く持ちも良くする目的で微粒子、普通、粗目混合に至りました。そしてこの配合は粗目だけと違いオガ同士の結合もある程度確保できます。
 また少し違った意味でも単一の粒子による弊害は大きいと考えています。例えば微粒子だけの場合、幼虫にとっていい状態が一遍に訪れます。そして同時に状態は悪くなっていきます。いい状態が長続きしないということです。例えるなら温かいラーメンを例えば3杯一遍に出されたのと同じことです。一杯目を食べ終わったときには次のラーメンはもう冷めておいしくありません。一杯目を食べ終わってから二杯目が出てくるというのが、いつもおいしく食べられるので理想です。粒子の混合は粒子ごとの仕上がりのずれにより常にいい状態のオガが存在することになります。基本的にはこのようなことが言えますが、オガの腐朽といってもさまざまな影響があり少しのずれもあることは付け加えておきます。
 また羽化してくる個体の形状という面についても粒子からのアプローチが必要になると考えました。菌床飼育は材飼育に比べ羽化してくる個体の形状(太さ)という面で劣ると言われています。なぜ菌床ものは形状では劣るのでしょうか?推測でしかないのですが、形の差は運動量の差によるのではないでしょうか。咀嚼の回数の差です。オガクズ(特に微粒子)で飼育する場合は砕いたものを食べさせているのであまり噛み砕く必要がありません。材飼育の場合は自分で噛み砕かないと摂取できません。もちろんそれだけではないでしょうが、この運動が成虫を太くする大きな要因の1つだと考えています。栄養価の高いものを食べさせて運動させるというのが、がっしりした個体の羽化への最良の道だと考えています。今回の菌床は形状という問題も考慮して粗目混合に至りました。

3、水分

 水分については賛否両論あると思います。水分がないと生きていけないのは当然なのですが、幼虫の成長だけを考えると私は水分は一般に好まれているものより多めの方がいいと考えています。水分は体の多くを占めますが、直接細胞を作るわけではありません。しかし必要不可欠です。水は新陳代謝を促す物質であり、また余分にとった分は排出されるだけです。逆に水分の摂取が少ないと成長不良を起こす可能性が出てきます。事実極端に水分を減らすと成長不良を起こす個体も出てきます。クワガタの種類によっても違うと思いますが、最適水分量というのは必ずあります。他の生物同様クワガタの幼虫も50%以上はあった方がおそらくいいでしょう。
 しかしここで大きな問題が生じます。飼育下では排水が行われないため、水分量が多いと羽化不全などの問題が出てくるのです。また菌糸にとっても水分量が多いのは好条件であり、腐朽速度が速くなり培地の持ちが悪くなります。
 逆に極端な水分の制限は菌糸の活性低下や菌糸の絶対量の低下をもたらします。菌糸の幼虫に対する影響はここでは割愛しますが、菌糸の劣化、弱体化はさまざまな影響を及ぼし、幼虫にとって好ましくないことは間違いないでしょう(菌を強くするか弱くするかは菌の種類、幼虫の種類ごとの特性によって適性が少し異なります)。
 以上のような理由からすべての面で最適になる水分量はありません。何を重視するかで水分量は決まります。水分量に関しては幼虫の成長を阻害しないこと(菌糸の影響なども含みます)、羽化不全などを防止できることを考慮して50%以下(46%〜48%)を目安としました。水分量40%台前半かそれ以下というのは羽化不全は防げても菌糸の力を少し殺してしまいます。幼虫の成長にも影響が出てくることもあると思われますし、実はオガの持ちではなく菌糸の持ちを考えた時にもあまり好ましくありません。

4、種菌

 クワガタの飼育に使えるキノコの菌は数多く存在します。白色腐朽菌といわれるものならとりあえずは使えます。カワラタケ、ヒラタケ、マンネンタケ(霊芝)、シイタケなどです。数多くある種類の中で菌床にもっとも適した菌は今のところ「ヒラタケ系」の菌だと考えています。詳しくは企業秘密なので省略します。
 以前から使っていましたが、中でもやはり通称「オオヒラタケ」といわれる菌が今のところやはり一番いいと思います。数多くあるヒラタケ系のキノコのなかでこの菌の優れているところは、菌の強さの程よさです。ヒラタケですと雑菌には強いですが、菌も強固で、幼虫にとってはオオヒラタケくらいの方が好ましいと考えています。一般に言われているヒラタケ菌床による幼虫の成長むらはこの辺が大きいのではないかと推測しています。幼虫が自分がいる環境をコントロールしているとすると、菌があまりにも強いと幼虫にとってはあまりいい環境とはいえません。
 ところで「オオヒラタケ」というキノコに関してはメーカーによっても名称はさまざまでなかなか把握しづらいのが現状です。また現状では「オオヒラタケ」が一番いいとしていますが、実験した種類はそれほどありませんし、他に探せばもっと適した菌はあるかもしれません。現状では「オオヒラタケ」が最適だと思っています。

5、添加剤

 添加剤は大切です。菌床の質を一番左右すると言っても過言ではありません。幼虫を(主に間接的に)大きくする一番の要因なのは間違いありません。添加剤は菌糸の持ちや雑菌に対する抵抗力などにも影響します。
 粒子の所でも述べましたが、菌床の「持ち」と言ったとき、1つはオガの持ちがあり、これはオガの腐朽が進みクワガタの幼虫にとって不良な状態になることで、この場合は菌糸もだいぶ弱ってきていますので、総合してエサが終わったと言ってもいいでしょう。しかしオガの状態は大丈夫でも雑菌などで菌糸がやられて劣化してしまうことがあります。このような状況の原因は飼育環境とエサ(菌床)自体の質の両方が考えられます。このような場合、菌床の質は種菌によるもの以外では添加剤によるものが大きいのです。菌糸の持ち、雑菌に対する抵抗力は添加剤にも左右されるのです。
 また菌糸も食べて大きくなる幼虫にとっては菌糸の影響が多大であるのは間違いないでしょう。菌糸をいかに活性化し幼虫の成長にとって一番いい状態にするかが大切です。添加剤に関しては公開できませんが、例えば小麦粉よりフスマの方が菌糸にとっては良く、また仮に幼虫が直接摂取したとしても栄養価という面ではフスマの方が勝ります。
 添加剤の量というものも大切です。添加剤の入れすぎは雑菌の攻撃を受けやすくし、菌糸の劣化を招きやすくします。腐敗しやすいため死亡率にもかなり影響してきます。
 あまり公開できませんのでこれくらいのことしか書けませんが、新菌床はもちろんさまざまな観点から添加剤を選択し、配合してあります。今回の新菌床は一見粒子などが特徴になると思いますが、菌床はすべてそうですが私は結局は添加剤に一番気を使います。育たない菌床を見たときは多くの場合添加剤に原因があると思っていいと思います。

 いままで述べてきたことを総合して新外産菌床は完成しました。現段階での認識ではかなりの完成度だと自負しています。商業目的ではなく自己満足で作ったものであって、当初は量産の予定もありませんでした。私の考えに共感してくれる方にだけ使ってもらえればいいと考えていましたし、今もそう思っています。思った以上に反響があり、他の菌床をしのぐまでになっています。菌床作製にあたっていろいろな方の意見を聞き参考にさせてもらいました。この場をかりてお礼を申し上げます。

 科学的根拠に基づいているものと推定で書かれているものがありますが、推定で書かれているものにおいてもそれなりの根拠を持った上での推定です。それでも間違った解釈もあるかと思いますが、その辺はご了承ください。


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2002年2月18日公開