新外産AGについて(新商品名AG) 

 もともとは従来の新外産菌床の初、2齢幼虫用に作られたものです。中身はブナ主体。実際は羽化まで普通に飼育できます。
 新外産菌床は持ちなどさまざまなことを考慮していますが、この菌床は幼虫を大きくすることを第一に作られています。新外産菌床自体とても大きくなりますので、目に見える明らかな差は飼育していて感じないこともあると思います。

新外産菌床との比較

粒子   新外産菌床より細かめ
持ち   新外産菌床よりやや劣る
水分   新外産菌床よりやや多め
添加剤  新外産菌床より栄養価を重点に考えた配合
成長   新外産菌床より幼虫の成長は速い

新外産AG作製へのアプローチについて

そのまえに、クワガタの幼虫の栄養摂取の仕組みについてですが、クワガタ業界で言われている菌床における幼虫の摂取の仕組みの一般的な解釈は以下の通りです。「クワガタムシの幼虫は生のオガクズは消化、吸収できないので、キノコの菌に分解させ、吸収しやすくなったものを食べて成長していく。」この解釈では漠然としていますので、もう少し細かく分けて考えたいと思います。

通常、クワガタムシの幼虫は生のオガクズは消化吸収できないと言われています。それは木の細胞壁に含まれるリグニンが接着剤代わりになってセルロースなどの利用を妨げているからです。そこでヒラタケなどの白色腐朽菌の力が必要になってくるのです。白色腐朽菌によってリグニンを分解してもらい、セルロースなどを利用すると言う仕組みです。菌床飼育の場合、幼虫は分解されたものを食べているので吸収効率がよく、大きくなると言う解釈だと思います。(クワガタの幼虫が生の木を消化吸収できないというのも疑問を持っているのですが、菌床の説明とは関係ありませんので省略します)
 以上が一般的な解釈でこれはクワガタの本にも書いてあります(たぶん)。しかし、私は菌床飼育で幼虫が大きくなるのは上記のことが主な要因ではないと解釈しています。業界では、菌床のことになるとリグニンがどうとかいう話になるのですが、もちろんリグニンが分解されればセルロースの利用効率は多少上がるでしょうが、セルロースは無窒素物です。基本的にはエネルギー源になるものです(一部キチンにも利用されると思われます)。体を形成するものはタンパク質であり、大きくするためにはタンパク質について言及しないわけにはいきません。リグニンの分解でセルロースが利用しやすくなっただけで大きくなるのなら、無添加の菌床で飼育してみてください。限界を感じるはずです。同じ条件で飼育した場合、添加剤が入っているものには到底及びません。それはタンパク質が足りないからです(+添加剤からくる菌糸活性による酵素の影響も考えられます)。また、菌床飼育における菌糸の影響はとても大きいのですが、特に国産オオクワなどではわかりやすく、ご存知のように菌糸の活性が成長に大きく影響してきます。タンパク質が多く入っていても菌糸が弱ければ大きくならないと言えるでしょう。
 以上のことから、菌床飼育において幼虫を大きくするには、栄養価(主にタンパク質)と菌糸の活性が第一条件で、これらがまず満たされない限り、培地の状態(腐朽度合い、一般に言う仕上がり具合)が良くても限界があると考えています。結局リグニン、セルロース、ヘミセルロースといった問題は二の次です。3大栄養素の1つにすぎません。大きくするにはタンパク質の方がより大切になります。
 以上の私なりの解釈から私は菌床作製時の添加剤は特にタンパク質に重点を置いています。クワガタムシの幼虫の要求量をまず探らなければいけませんが、これはデータにありません。私の経験でのクワガタムシ幼虫のタンパク質要求量は5%以下と予想しています。5%は高位の数値です。実際はもっと少なくていいと思います。そして避けては通れないのが必須アミノ酸の要求量です。これもデータにはありませんが、近い種類のエビやカニなどからある程度推測しました。業界ではあまり必須アミノ酸のことは言われませんが栄養学の観点からは避けては通れない問題です。また菌床の質を最大限に高めようとした場合、持ちや、死亡率などほとんど目に見えない細かい部分を追求した場合には添加剤の質を上げることは必須条件だと考えています。質の高い添加剤を少量入れるというのが私の理想です。そのためには添加剤のタンパク質含有量とタンパク質の質(必須アミノ酸の比率)をあげない限り、そこにはたどり着けません。また最大限に大きくするということからしてもタンパク質の不足は絶対にあってはなりませんので、その点からも必須アミノ酸についても気を配る必要があります。人間の食べ物や犬、猫のたべものはちゃんと栄養価の計算がされているわけですから、クワガタの食べ物も計算されるべきだと思います。ところでクワガタの幼虫における必須アミノ酸ですが基本的には人間とほとんど同じと考えていいと思います。
 菌糸の活性にもすこし言及しますと、たとえばある程度タンパク質量が多いほうが活性化しますので、その点も含め添加剤のタンパク質量を増やす必要はあります(これはクヌギ100、新外産菌床でもやっています)。また、ここでは言及しませんが、その他の栄養素(脂質、ビタミン、ミネラル)についてももちろん考慮しています。
 新外産AGの添加剤の必須アミノ酸は人間ではアミノ酸化100です。基本的には要求量は体を組成するアミノ酸の割合と一致する部分が多いので(そうじゃない場合もあります)、車えびの必須アミノ酸組成をみてもとてもバランスはいいと思います。またヒラタケの必須アミノ酸組成を見てもらうとわかるのですが、組成比率がよく似ていますので菌糸にとっても無駄がないことがわかります。とはいっても、まだ理想の添加剤だとは思っていません。こうすればもっと良くなると言うのはあるのですが、実際はコストなどの問題もありできないのが現状です。もちろん今のままでも十分満足できる添加剤だと思います。

 ここまできましたので必須アミノ酸組成について以下の表にまとめました。


必須アミノ酸組成 N1gあたり(mg)

種類 イソ
ロイシン
ロイシン リジン 含硫
アミノ酸
芳香族
アミノ酸
スレオニン トリプト
ファン
バリン ヒスチジン
ヒラタケ 130 215 180 85 255 155 49 170 80
シイタケ 145 240 210 80 255 180 66 175 70
マイタケ 160 260 200 110 305 185 66 205 80
中力粉 220 430 140 260 480 170 63 250 140
精白米 250 500 220 290 580 210 87 380 160
コーングリッツ 240 960 110 320 590 200 33 300 190
フスマ 215 410 260  220? 380 230  60? 340 160
大豆タンパク 300 490 380 160 560 220 83 300 170
小麦タンパク 240 430 110 230 520 160 62 260 140
車えび 220 410 460 210 410 210 54 230 120
おきあみ 250 390 420 200 390 230 57 270 120
毛がに 230 390 400 210 400 240 52 240 130
人間(要求量) 180 410 360 160 390 210 70 220 120
カイコ(要求量) 255 255 255 130 255 225 64 255 160
子豚
(要求量)
210 440 390 200 370 230 60 270 130
新外産AG
添加剤
260 495 460 210 480 240 76 295 165

五訂日本食品標準成分表、日本飼養標準、きのこの科学参照
新外産若齢用添加剤は自社計算値
カイコの要求量はスレオニンを225にした場合の数値で出所不明
信用できる数値かどうかわかりません

添加剤の質を上げること
 添加剤の質を上げることは菌床の質を上げることにつながると考えています。もともと幼虫は小麦粉やフスマなどを食べているわけではありませんから、できるだけ少ないほうが多くの部分でメリットは多いと考えています。
 ここで、人間の必須アミノ酸の要求量を基準に考えてみると、要求量を満たすのに仮に新外産AG添加剤が100g必要とすると、小麦粉(中力粉)でそれを満たすためには、550g以上は最低必要という計算になります。菌床においても必須アミノ酸に関しては新外産AG添加剤は中力粉の5分の1くらいの添加で必要量をまかなえると言うことになります。これは大きいと思います。
 私はフスマ100%でオオクワの幼虫を飼ってみたことがありますが、半年間は生きました。しかし全く成長せず、ほとんど摂取しているような感じはしませんでした。フスマをエサとみなさなかったのではないかと思います。幼虫にとっての添加剤は栄養であるとともに毒を含んだ物質だと私は考えています。発酵マットや菌床は微生物や菌糸によって毒素をある程度抜かれたエサで、そういった部分でも幼虫が摂取しやすいのだと思いますが、できれば添加剤はあまり入れないですむのならそれに越したことはないと思います。添加を減らすことはもちろん持ちの部分にも影響してきますし。
 (ただし同時に培地の持ちはタンパク質総量によっても影響されますので、添加が少なくてもタンパク質量が多い新外産AGは必ずしも持ちがいいということにつながるわけではありません。)

 最後に簡単にコンセプトをまとめると、「新外産AGは大きくなることを目的に、特に幼虫の栄養としてのタンパク質と、添加剤による菌糸の活性に重点をおいて作られています」となります。
 タンパク質の不足だけはないと思いますので、補助添加剤などを入れる場合でもタンパク質系のものより、ビタミンやミネラルなどに重点を置いて添加することをお勧めします。ビタミン、ミネラルの不足もないとこちらでは判断しています。

 個人的には新外産菌床の方がバランスが良く、全体的な質は高いように思います。対して新外産AGは特徴のある菌床というイメージです。面白みはこちらのほうがあると思います。

追加(2003年9月29日)
 クワガタムシの幼虫の必須アミノ酸は解明されていません。人間においては以上の9種類(11種類)が必須アミノ酸となっています。必須アミノ酸は動物でも種類によって違いがあります。私は上記の9種類+1種類をクワガタムシの幼虫の必須アミノ酸と仮定して新外産AG添加剤を製作しています。

2003年 9月10日公開
2003年 9月24日更新
2003年 9月29日更新
2004年 5月12日更新